出口かずみ◎連載エッセイ

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『シズばあさんのちえぶくろ』 出口かずみ / 作・絵

シズばあさんは、年よりの イヌです。
年を とってから、シズばあさんの いえには、よく ごきんじょさんが やってきます。

「シズばあさん、おりがみを おしえてよ」
「 ‥‥‥ 」
シズばあさんは、いるすを つかいます。
いるすとは、ほんとうは いえにいるのに、いないふりを することです。

「シズばあさん、かぜに きくのみものは なにとなにを まぜればいいの?」
「 ‥‥‥ 」
シズばあさんは、また いるすを つかいます。

「シズばあさん、しょうゆのシミとり どうやるんだっけ?」
「 ‥‥‥ 」
また いるすです。
ごきんじょさんたちは、あきらめて かえっていきました。


ある日、村のはたけの トウモロコシが、ぜんぶ かれて しまいました。
げんいんが わかりません。
村の みんなは あつまって はなしあいましたが、いいかいけつほうは みつかりません。

「そうだ!シズばあさんに きいてみよう!」
みんなは シズばあさんの いえに むかいました。
げんかんの チャイムを ならし、
「ねえねえ シズばあさん、トウモロコシは どうして かれてしまったのでしょう?」
「 ‥‥‥ 」
シズばあさんは、また いるすを つかうのでした。

「ねえ!シズばあさん!」
「おしえてよ!」
ドンドンドン! みんなは とびらを ノックしたり、ガラスどを たたいたりしました。

しばらくして…
ガラッ!

シズばあさんが かおを だしました。
「わたしが 年よりだからといって、なんでも しっていると おもうなよ!」 と、
シズばあさんは どなって、ガラスどを ピシャリと しめました。


シズばあさんは、年よりだけど、あんがい ものごとを しらないのです。

(おしまい)

           

 

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《 補足 》
このお話は、出口かずみさんの最新作「どうぶつせけんばなし」に収録されているお話です。

◎出口かずみ「どうぶつせけんばなし」 ※通販でも購入可能です。
http://rusuban.ocnk.net/product/9103

この本は、9つの短いお話が入った短編集です。

著者の出口かずみさんが、猫に読み聞かせるために書かれた短いお話たち。
どのお話も、派手な展開はないけれど なんだか可笑しい。
一度読みはじめたら、気付かないうちにニヤニヤしているかもしれません。


9つのお話のタイトルはこちら。

(1) アヒルとめがね
(2) こねこのしろくろ3きょうだい
(3) きをつかったリス
(4) もぐらのどりょく
(5) シズばあさんのちえぶくろ
(6) わすれんぼう、ねぼう、かくれんぼ
(7) やすみの日のネコ
(8) とりとおじいさん
(9) こぐまのチャムチャム


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「おじさん」


阿佐ヶ谷にいた頃、「1000円おじさん」という方が出没していました。
駅周辺の人に話しかけ、1000円をたかるおじさんの事です。
私もたかられた中の一人です。


ちょうどボンヤリしている時に話しかけてくるので、
あれ、この人知り合いだっけ…?と記憶を巡らせてるうちに、
おじさんの図中にかかってしまうパターンなのです。

確か、どこかでお金を無くしたとかいう経緯から
「だから1000円ちょーうだい!」と言われ(チャーミングに)、
途中で、ハッ!誰だこの人⁈となり、慌てて「すいません」と丁重にお断りしたのを覚えています。


そして一年ほど経ったある日、
何と、またもや1000円おじさんが私に話しかけてきたのです。
おそらく前にも一度私に話しかけた事など忘れ ているのでしょう。

しかしニ度もたかられるなんて、
私は何とまあ1000円よこしそうなマヌケ面をしていることよと、少しだけ落ち込みました。

2度目のその時ももちろん私はボンヤリしていたし、おじさんの顔も忘れていた為、
うっかり無視し損ね、話を聞いてしまったのです。


「あのね、髪がすごーく伸びちゃって、切ろうかと思っててね」

「へぇー」

「そこのエスカレーターの横(の店)、1000円で切ってくれるんだよ」

「へぇー、そうなんですか」


「だから、1000円ちょーうだい!」

と、

一通りの会話のあとチャーミングにたかられるところまでいったところでやっと、
ハッ!このおじさんは!と思い出して、

「それは、あの、いやです!」

と、以前のように慌てて丁重にお断りしました。



それ以来、私はそのような怪しいおじさんが近づいてくると、
1000円たかられるのではないかと恐れ、身を構えることにしたのです。

それに加え、ここ数年で、道を訊くフリをしてフルーツを売りつけてくる
AAA風の軽めな若者もするりとかわせるようになっているのです。




そしてこの夏の出来事です。

バス停でバスを待っていたある日のこと。


向こうから、ダルダルのTシャツの、歯抜けのおじさんが
自転車でこちらに向かって来ているのがわかりました。
遠くからでも歯抜けだと分かったのは、おそらく笑顔だったからでしょう。

こ・れ・は…

もちろんピンときました。


1000円おじさんの記憶が蘇ったのと共に、
久しぶりに私の「変質者ではないかバロメーター(※エッセイ第一回目参照)」が作動したのです。


私は防御態勢として、携帯電話に集中しているフリをしました。
が、おじさんは私の真後ろに来たところで、キキーッとブレーキをかけたのです。

私は、体の何処かにグッと力を入れて身を構えました。



しかしおじさんは東の空を指差し、

「おねえさん、虹出てんの知ってる?」

とだけ言い、すぐにその場を立ち去ったのです。


私は呆気に取られ、空に掛かるキレイな虹を見、
そして急いで「あぁ!ほんとだっ!」と、わざとおじさんに聞こえるように言いました。
おじさんはヘヘッと笑い、風のように去ってしまいました。



疑ってごめんなさい…

私が身構えたおじさんは、
ただの「虹を教えたい歯抜けおじさん」だったのです。


私は、普段は美しい風景や自然現象など写真におさめる人間ではないのに、
そしておじさんはもうその場には居ないのに、
何故か、罪滅ぼしのつもりなのか、パシャパシャと虹の写真を何枚も撮りました。

この行動、おじさんに伝われ!の思いだったのです。

バスが到着して座席に座ってからも、何故か私はパシャパシャ虹を撮り続けました。
近くに座っていた親子の子供が母親に「あの人なに撮ってんの?」と訊き、
母親が「あんまり見ないの」とたしなめていました。

少し、自分が不審がられる側の気持ちになりました。

これも罪滅ぼしなのです。



普段、見た目で判断する奴なんぞは最低だと思っていても、
私も知らず知らずのうちに、キレイな空に目もくれず、
見た目だけで色々と 勝手で失礼な判断をしてしまっているんだなぁと反省しました。








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出口かずみ

佐賀県うまれ。絵本作家、イラストレーター。
マァヘイくんシリーズの絵本など、ユニークな作品が多い。

当店でも「小人とよむしりとりえほん」などの豆本が大人気。
「ポテトむらのコロッケまつり」(作:竹下文子/絵:出口かずみ/教育画劇)が出版されました。


≫ 出口さんの豆本など http://rusuban.ocnk.net/product-group/67/0/photo

≫ 出口さんのHP http://www.deguchikazumi.com/

 

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「Hくんの話」



数年前に受け持った生徒の話です(私は幼稚園の絵画教室の講師をしています)。
年中さん(4、5歳児)クラスの日の事です。

大抵今まで出会った4、5歳児は、絵のモチーフとして、
好きな動物やアニメのキャラクターなどを登場させたりが多いのですが、
Hくんに限っては、固執して「人体」に興味があるらしく、
絵を描く過程で必ず、何かしら体の部位が登場していました。


彼からする「人体」というのは、
内臓、骨、筋肉、血液、ハゲ、下ネタ全般です。


さてその日は、みんなでしりとり遊びをしながらお絵描きしようという事にし、
自分の言った言葉を絵に表したら、
後でママに何をしりとりしたのか当ててもらおうという流れでした。

まず私が幼稚園名「⚪︎⚪︎い」で始め、
すぐそばにいたHくんからの「い」でスタートとなりました。
よく奇抜な事を言うHくんなので多少不安はありましたが、
「Hくん、“い”だよ、“い”で始まるの何があるっけ?」と促しました。

さすがに人体好きだからといって「胃」と言ったりするんじゃないかと推測しましたが、
まだそこまで気の回る年齢ではありません。

そこはHくん、普通に5歳児、
「いし。」と答えました。

ここで今日の注意点です。
自分の言ったワードを、絵にしなくてはならないのです。

いつも内臓だの血だの骨だのを描いているHくんが、
ただの“石”と答えたのです。


果たしてHくんがおとなしく石を描いてくれるのだろうかと不安を抱きつつ、
無理に人体周りを描くよう勧める必要もないので
私は「あぁ!いしねぇ!」と言い、次の子に回しました。

いし→しお→おにぎり→りんご→ごりら→らっこ→こいぬ→ぬいぐるみ…

などと、幸いにもしりとりは順調に進みました。
それぞれ、自分の言った言葉を絵にしていきます。

「りんごすごくおいしそうじゃーん」 「らっこってむずかしいよねぇ」
などと皆を見て回っていると、
Hくんが、私のところへ来てポンポンと肩を叩き、ボソリと言いました。

「ねぇ出口せんせい、おれ、いし描きたくねえ」

… やっぱり。

そう来ると思った。


「でもさ、今日しりとりなんだよなぁ。
どうしよう、Hくんがさいしょの“いし”描かないと、しりとりがわかんなくなっちゃうなぁ〜」
と私はとても困ったリアクションをしてみせました。

が、効果はゼロです。


そこでHくんの一驚の一言。


「おれ、いしじゃなくて、おんなのハダカが描きてえ」

…。


私は面食らった後、冷静に考えました。
ごもっとも。

そりゃ誰だって、ただの石なんかより
女のハダカを描く方が面白いことくらい私だってわかります。



そこで私は
「そうだよねぇ…、 じゃあさ、いしを描いた後で、おんなのハダカ描いたらどう?」
と提案しました。

Hくんは神妙な顔で考え、
「じゃあそうする」と納得した様子で席に戻り、沢山の石を画用紙いっぱいに描いていました。

その様子を見てホッとし、他の子のところに回って、
しばらくしてまたHくんの様子を見に行くと…

壮大な石群の中に一人、
オノ・ヨーコのような出で立ちの裸の女が描かれていました。


岩場の全裸のヨーコなど私は一度も見たことはないのですが、
それくらいに60年代の前衛芸術感漂う、
どこかサイケデリックな作品が出来上がっていたのです。


結果、ママ達に見せる際には、
しりとりとしては、初っぱなから既に意味不明の絵となっていたのですが、
過程を説明することで何とか伝わりました。



その後、Hくんは
「深海に潜りたいから」
と絵画教室を辞めてしまったのですが、
今でも強烈に記憶に残るステキな感性を持ち合わせた男子でした。

今ではきっと尚、興味深い小学生になっている事と思います。









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出口かずみ

佐賀県うまれ。絵本作家、イラストレーター。
マァヘイくんシリーズの絵本など、ユニークな作品が多い。

当店でも「小人とよむしりとりえほん」などの豆本が大人気。
「ポテトむらのコロッケまつり」(作:竹下文子/絵:出口かずみ/教育画劇)が出版されました。


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「感情の表し方」


歯医者に通っています。
奥歯が痛みだし、限界まで達し、とうとう駆け込む事になったのです。


緊急オペのように診察台に臨み、
加瀬亮似の先生を絶大に信頼しようと心に決め、処置が始まりました。

私は歯医者さんに行くのが大大大嫌いなのですが、
今回は緊急なので(そして先生が加瀬亮似なので)仕方ありません。
一番体験したくない“痛み”に耐えなければならないのです。

ただの虫歯だったのですが、神経に達していたらしく、
麻酔をかけても効きが悪かったようで、それはそれは、
失神の末このまま死んでしまうのではないかという痛みでした。
いくら先生が初対面で加瀬亮似だからといって、大人しく耐えていられる痛みのレベルではありません。

堂々と「ヒィ~!」「イテェ~!」と唸りながら、そして号泣しました。

号泣したのなんて、数年前に高円寺から成田空港に向かう途中で財布を落とした時以来です。


処置が終わった後、私が余りにも大袈裟に痛み悶え、涙を流していたからか、
先生が私の目を見て、「絶対に、絶対に治りますから!一緒に頑張りましょう!」と、
ただの虫歯の女をあたかも重病患者のように扱ってくれ、随分と私を勇気づけてくれました。

さすが加瀬亮だけあって、私を今後も通院する気にさせるのもお手の物です。


ひとまず痛みは収まりましたが、あんなに叫び、足をバタバタさせ、痛み悶えたのを思い返し、
後からカァーッと恥ずかしくなってきました。
次回はちゃんと、大人らしく治療に臨もうと心に決めました。


「来週は、また痛いようでしたら麻酔をかけて治療しますね」
という言葉を胸に、その来週がやってきました。

今日は前回ほど取り乱したりしないぞと気合いを入れ、治療が始まりました。

今回もやはり、半分あの世にいきそうなくらいの究極の痛みです。

でも心の中で、「もうすぐ麻酔するから、それまで我慢、我慢…」と、
気を失う寸前までぐっとこらえ、痛みを大人っぽく表に出さず、耐えました。


ギュイーンギュイーンという音が止まり、
とりあえず前半が終わったな、これから麻酔しての治療だな、と思ったら、
先生が「今日は痛くなさそうでしたので、麻酔はかけずにやりました」
と爽やかに言ったのです。


ガーン。


私の我慢は…

あの地獄のような痛みは…

麻酔さえかけてくれていれば…


私が相当我慢強い事は判明したのですが、
私が素直に痛がっていれば、あんな思いはせずにすんだのです。

その次からというものの、
私は、素直に、いや、ややオーバーリアクション気味に痛みを伝える事にしました。
ちょっと染みただけで、「アガッ」と叫び、つま先を上げます。
痛みなどあったもんなら、両膝を上げます。

結局、どうしようもない痛みだったりするので
「痛いですよねー、がんばってくださいねー」とそのまま加瀬亮による治療は続行される事となります。


しかしこの一件で、歯医者さんでは感情を豊かに表現するべきなのだなぁとわかりました。

これは、普段あまり人にアドバイスする機会のない私からの、貴重なアドバイスです。


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出口かずみ

佐賀県うまれ。絵本作家、イラストレーター。
マァヘイくんシリーズの絵本など、ユニークな作品が多い。

当店でも「小人とよむしりとりえほん」などの豆本が大人気。
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こけしの呪い」

 

 


少し前に西荻窪に行き、こけしイベントのチラシをもらったり、
駅前のこけし屋でケーキを食べたりと、少しこけしめいた時間を過ごしました。

 

私は常々こけしを可愛いなとは思っても、自分で集めようと思った事はありませんでした。
東北出身の友達がよく

こけしなんか、地元ではどこも家の戸棚にホコリをかぶって並んでいる、
ぞんざいに扱っている、フンッ」

と顔をしかめて語っていたので、そうゆうもんなのかと聞いていたのです。


あと、こけしは可愛い反面、何だか誰かの魂がこもっているのではないか…、

夜中動きだすのではないか…、うすら笑ってやがる…などと、

ホラーな印象も持っていました。

 


そんな印象を持ちつつ、こけし屋の窓辺に飾ってある大こけしを見ながら、
猫好きの私は無性にこけしに愛猫柄の絵付けをしたくなったのです。

善は急げと、ユザワヤで無地こけしを探したのですが見つからず、
どこかで安いこけしを買って、その上に着色してしまうか、

いや、そうゆうやつには魂がこもっている恐れがあるから、
100円ショップで偽こけしなど売ってないだろうか…などと考えながら帰っていた時の事です。

 


出会いがありました。

 


高円寺駅からうちまでの帰り道にある古道具屋で、店頭にこけしが並んでいたのです。


雑にカゴに置かれ、値札には「まとめて1000円」。
何と、8本セットだったのです。

しかし私は一つあればそれで充分です。

 


店のおじさんに

「あのう、1体(魂inこけしの考えの為、数量呼称を“体”と言ってしまう)で良いんですけど」
と言ったのですが、

おじさんは「いや、これはセットで」と言って聞きませんでした。
バラで売ってこの子らを離れ離れにしたら何かこけしバチが当たるとでも言うのだろうか…
とまたスピリチュアルな事を考えた後、
結局諦め、買わずに帰りました。


しかし、家に帰っても何故かこけしの事が忘れられません。
それは、一目惚れした物を買いそびれた悔しさとはまた違った、

何か恐怖とも似た感情なのです。
何やらこけし達が「よくもアタイらを買わなかったわね…」と言っているように感じたのです。

 


悶々と一晩明かし、次の日の晩、

私は「やはりあの子らを買わなければ」と、もう一度あの古道具屋に足を運びました。
もちろんこけしは売れ残っていて、

おじさんが「大サービス!」とニコニコしながら8本を新聞紙に包んでくれました。
ホッとして、こけし8本の重みを手に入れた私は

なぜか、ふと、今日はいつもとは違う道を帰ってみようと思ったのです。

 


このお寺の横を通ると近道なのでは?…お寺コースを開拓です。
ですが何しろ夜です。


両脇が墓場のコースをなぜ私は選んでしまったのか…。

はっ!これは、今手に持っているこけしのせいではないか!と背筋がゾクッとしました。


怖い道中を(結局何も起きなかったのですが)恐怖心を膨らませ続けながら歩く事となりました。

 


変質者が出たら?そうだ、私はこけしを8体も持っているのだから、この中の一本で殴り返してやれ。
おっといけねぇ、
こけしを凶器にしたらそれこそ恨まれてしまう…。
お化けが出たらどうしよう。このこけしシスターズがお化けを引き寄せているかもしれない。
あれ、今「新聞紙なんかにくるまれてアタイら息が出来ない、苦しい、苦しいよう…」

って聞こえはしなかったか⁈
などと、恐怖の妄想は無限に広がります。

買わなきゃ良かったと後悔しかけたのですが、
これも「
よくもアタイらを破格の値段で買っときながら後悔してるわね…」

とまた恨まれそうで、何も考えないように努めました。
残念な事に、このお寺コースは、お寺が幾つも集まった地域だった為、

なかなかお寺ループから脱出できません。
脇の真っ暗な雑木林を突っ切れば、大通りに出れるはずなのですが、
今の私にはその勇気は無く、
ずっと道なりに歩くしかありませんでした。

 


気がつくと、本来ならうちまで15分で着く距離を、2時間も遠回りして歩いていたのです。
これはこけしの呪いに違いありません。

こけし、無駄歩きの術」なのです。

しかも私はこけし様を上から塗りつぶして猫にしようとしていたなんて、

バチ当たりにも程があります。

 


こけし様に完全に見透かされていたのです。

 


ごめんなさい、ごめんなさいと唱えながらやっとの事で帰宅し、

こけし様達を新聞紙から解放してテーブルに並べてみると、
これがまた雨染みや日焼けなどで、薄気味悪いこと。
しかし彼女達の機嫌を損ねると大変なので、お世辞で「かわいい〜」とは言いました。


結局、猫柄の着色については、東北のこけし工房から無地のこけしを取り寄せて実行しました。
それ以降、私はちょこちょこ新しいこけしを買って仲間を増やしています。

8体の魂を希釈しようとしている為です。

 

 

 

 

 

 

 

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出口かずみ

佐賀県うまれ。絵本作家、イラストレーター。
マァヘイくんシリーズの絵本など、ユニークな作品が多い。

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「占い」

 


「カップ底のコーヒーのしみ占い」や、「故・タコのパウル君W杯占い」などがあるように、

“猫砂占い”というのはどうかと思いました。


猫のトイレ掃除の際に、固まった猫砂が日によってあらゆる形に表現されているので、

その形で今日の運勢が占えるのではないかと思ったのです。

 


まず、吉あたりなのが、「ハンバーグ型」、「おはぎ型」です。

今日もそつなく過ごせますよといった感じです。


次に、小吉、末吉くらいなのが、「お好み焼き型」です。

数回分の塊が合わさってちょうどお好み焼き一枚分くらいになっている時です。

まあ今日も頑張っていきましょうといった感じです。


中吉は「目ン玉つながりのお巡りさん型」です。

塊2個分が繋がって、天才バカボンに出てくるお巡りさんの目の形によく似ているのです

今日もごきげんに過ごせるかもね!くらいです。

 

続いてお待ちかね、大吉なのが「甘食型」です。

ハンバーグ、おはぎの形に似てはいますが、中央部分が愛らしく盛り上がっているのです。


ラッキー!この日は何か良いことがありそう!です。


そして、凶なのが、「巨大カントリーマアム型」です。

ご想像通り、数回分の塊のところどころに、硬めの糞が埋まっている状態です。

これは凶というか、掃除をサボっていた反省です。

サボった事を猫に謝り、慎ましく過ごしなさいという事です。

 


番外編で、塊ではありませんが、猫砂全体を見た状態で「カレー待ち型」があります。


猫が一生懸命、猫砂全体をトイレの片側に寄せた後の状態です。

まるで、ご飯はよそいましたよ、さあ後はカレーをかけてくださいなといった形です。


これは大吉と並んでラッキーなのですが、レアなパターンなのです。

 


長々と猫の排泄物について述べてしまい少し申し訳ないですが、これからもひっそり占いを続けようと思います。

 

 

 

 

 

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出口かずみ

佐賀県うまれ。絵本作家、イラストレーター。
マァヘイくんシリーズの絵本など、ユニークな作品が多い。

当店でも「小人とよむしりとりえほん」などの豆本が大人気。


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『江戸っ子』

 

私は「江戸っ子」について詳しく知りません。

 

周りに「自分は江戸っ子だ」と公言している人がいないのもありますし、

そもそも江戸っ子とはどういった環境の下育った人達の事を指すのかもわかっていないからです。

私の浅い江戸っ子情報としては、グーをした手の腹で鼻をピッと擦り上げるとか、

地下足袋を履いているとか、じゃりん子チエに出てきそうとか、

泣ける話にめっぽう弱いとかなのですが、若干間違っているかもしれません。

 

 

先日、家のすぐ近所で、おじさんに道を訊かれました。

 

もう日が落ちていたので、おじさんが私の前で自転車のスピードを落とした際、

私の「変質者ではないかバロメーター」もしくは「物売りではないかバロメーター

(私は訪問販売でうっかり買ってしまうタイプなのです)」が作動し、

前者がまだ作動し終わっていないところで、「ちょっとお尋ねしますがね」と話しかけられました。

 

私はハハーン、この人江戸っ子だな、とピンときました。

 

 

「お尋ねしますがね」の「がね」の部分が微妙に“粋”だったからです。

そして、おじさんは「青梅街道は、ここからして、なにしろどう通ってますかね?」 と言い、

私は「なにしろ」って何だよと思うと同時に、これは江戸っ子ポイント追加だぞ、と思いました。

そして自分も「なにしろ」と言いたいと思ったのです。

 

「えっと、なにしろ直角ですね」

 

 

「なにしろ直角ですか!」

 

 

「はい、この先の細い道が青梅街道と平行なので、ここはなにしろ直角です」 と、

 

江戸っ子っぽい会話をした後、おじさんは

「暗い中お尋ねしてすみませんねぇ、てんで方向音痴で」

と暗闇で恐らく照れ笑いをしていました。

 

またしても江戸っ子ポイント追加です。 「てんで」です。

 

私は九州出身だからか、生まれてこのかた「てんで」を使用した事がなく、

このフレーズもいつか使ってみたい言葉の一つなのです。

おじさんはニコニコして(夜なので推測)行ってしまいましたが、

私にとってなかなかの高得点江戸っ子でした。

 

これからも、居酒屋などで隣のおじさんが江戸っ子ポイントが高かったりする事を

そっと噛み締めたいと思います

 

 (おわり)

 

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出口かずみ web連載エッセイ

今月から毎月一回くらいのペースで、絵本作家の出口かずみさんにお願いしていこうと思ってます。
お互い無理せずやっていこうと思ってますので、長い目で見守って頂けるとありがたいです。
ちなみに、全12回を予定しています。どうぞ、お楽しみに。

 

出口かずみ

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