出口かずみweb連載エッセイ・第3回 『こけしの呪い』

 


こけしの呪い」

 

 


少し前に西荻窪に行き、こけしイベントのチラシをもらったり、
駅前のこけし屋でケーキを食べたりと、少しこけしめいた時間を過ごしました。

 

私は常々こけしを可愛いなとは思っても、自分で集めようと思った事はありませんでした。
東北出身の友達がよく

こけしなんか、地元ではどこも家の戸棚にホコリをかぶって並んでいる、
ぞんざいに扱っている、フンッ」

と顔をしかめて語っていたので、そうゆうもんなのかと聞いていたのです。


あと、こけしは可愛い反面、何だか誰かの魂がこもっているのではないか…、

夜中動きだすのではないか…、うすら笑ってやがる…などと、

ホラーな印象も持っていました。

 


そんな印象を持ちつつ、こけし屋の窓辺に飾ってある大こけしを見ながら、
猫好きの私は無性にこけしに愛猫柄の絵付けをしたくなったのです。

善は急げと、ユザワヤで無地こけしを探したのですが見つからず、
どこかで安いこけしを買って、その上に着色してしまうか、

いや、そうゆうやつには魂がこもっている恐れがあるから、
100円ショップで偽こけしなど売ってないだろうか…などと考えながら帰っていた時の事です。

 


出会いがありました。

 


高円寺駅からうちまでの帰り道にある古道具屋で、店頭にこけしが並んでいたのです。


雑にカゴに置かれ、値札には「まとめて1000円」。
何と、8本セットだったのです。

しかし私は一つあればそれで充分です。

 


店のおじさんに

「あのう、1体(魂inこけしの考えの為、数量呼称を“体”と言ってしまう)で良いんですけど」
と言ったのですが、

おじさんは「いや、これはセットで」と言って聞きませんでした。
バラで売ってこの子らを離れ離れにしたら何かこけしバチが当たるとでも言うのだろうか…
とまたスピリチュアルな事を考えた後、
結局諦め、買わずに帰りました。


しかし、家に帰っても何故かこけしの事が忘れられません。
それは、一目惚れした物を買いそびれた悔しさとはまた違った、

何か恐怖とも似た感情なのです。
何やらこけし達が「よくもアタイらを買わなかったわね…」と言っているように感じたのです。

 


悶々と一晩明かし、次の日の晩、

私は「やはりあの子らを買わなければ」と、もう一度あの古道具屋に足を運びました。
もちろんこけしは売れ残っていて、

おじさんが「大サービス!」とニコニコしながら8本を新聞紙に包んでくれました。
ホッとして、こけし8本の重みを手に入れた私は

なぜか、ふと、今日はいつもとは違う道を帰ってみようと思ったのです。

 


このお寺の横を通ると近道なのでは?…お寺コースを開拓です。
ですが何しろ夜です。


両脇が墓場のコースをなぜ私は選んでしまったのか…。

はっ!これは、今手に持っているこけしのせいではないか!と背筋がゾクッとしました。


怖い道中を(結局何も起きなかったのですが)恐怖心を膨らませ続けながら歩く事となりました。

 


変質者が出たら?そうだ、私はこけしを8体も持っているのだから、この中の一本で殴り返してやれ。
おっといけねぇ、
こけしを凶器にしたらそれこそ恨まれてしまう…。
お化けが出たらどうしよう。このこけしシスターズがお化けを引き寄せているかもしれない。
あれ、今「新聞紙なんかにくるまれてアタイら息が出来ない、苦しい、苦しいよう…」

って聞こえはしなかったか⁈
などと、恐怖の妄想は無限に広がります。

買わなきゃ良かったと後悔しかけたのですが、
これも「
よくもアタイらを破格の値段で買っときながら後悔してるわね…」

とまた恨まれそうで、何も考えないように努めました。
残念な事に、このお寺コースは、お寺が幾つも集まった地域だった為、

なかなかお寺ループから脱出できません。
脇の真っ暗な雑木林を突っ切れば、大通りに出れるはずなのですが、
今の私にはその勇気は無く、
ずっと道なりに歩くしかありませんでした。

 


気がつくと、本来ならうちまで15分で着く距離を、2時間も遠回りして歩いていたのです。
これはこけしの呪いに違いありません。

こけし、無駄歩きの術」なのです。

しかも私はこけし様を上から塗りつぶして猫にしようとしていたなんて、

バチ当たりにも程があります。

 


こけし様に完全に見透かされていたのです。

 


ごめんなさい、ごめんなさいと唱えながらやっとの事で帰宅し、

こけし様達を新聞紙から解放してテーブルに並べてみると、
これがまた雨染みや日焼けなどで、薄気味悪いこと。
しかし彼女達の機嫌を損ねると大変なので、お世辞で「かわいい〜」とは言いました。


結局、猫柄の着色については、東北のこけし工房から無地のこけしを取り寄せて実行しました。
それ以降、私はちょこちょこ新しいこけしを買って仲間を増やしています。

8体の魂を希釈しようとしている為です。

 

 

 

 

 

 

 

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出口かずみ

佐賀県うまれ。絵本作家、イラストレーター。
マァヘイくんシリーズの絵本など、ユニークな作品が多い。

当店でも「小人とよむしりとりえほん」などの豆本が大人気。


≫ 出口さんの豆本など http://rusuban.ocnk.net/product-group/67/0/photo

≫ 出口さんのHP http://www.deguchikazumi.com/

 

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