出口かずみweb連載エッセイ・第4回 『感情の表し方』



「感情の表し方」


歯医者に通っています。
奥歯が痛みだし、限界まで達し、とうとう駆け込む事になったのです。


緊急オペのように診察台に臨み、
加瀬亮似の先生を絶大に信頼しようと心に決め、処置が始まりました。

私は歯医者さんに行くのが大大大嫌いなのですが、
今回は緊急なので(そして先生が加瀬亮似なので)仕方ありません。
一番体験したくない“痛み”に耐えなければならないのです。

ただの虫歯だったのですが、神経に達していたらしく、
麻酔をかけても効きが悪かったようで、それはそれは、
失神の末このまま死んでしまうのではないかという痛みでした。
いくら先生が初対面で加瀬亮似だからといって、大人しく耐えていられる痛みのレベルではありません。

堂々と「ヒィ~!」「イテェ~!」と唸りながら、そして号泣しました。

号泣したのなんて、数年前に高円寺から成田空港に向かう途中で財布を落とした時以来です。


処置が終わった後、私が余りにも大袈裟に痛み悶え、涙を流していたからか、
先生が私の目を見て、「絶対に、絶対に治りますから!一緒に頑張りましょう!」と、
ただの虫歯の女をあたかも重病患者のように扱ってくれ、随分と私を勇気づけてくれました。

さすが加瀬亮だけあって、私を今後も通院する気にさせるのもお手の物です。


ひとまず痛みは収まりましたが、あんなに叫び、足をバタバタさせ、痛み悶えたのを思い返し、
後からカァーッと恥ずかしくなってきました。
次回はちゃんと、大人らしく治療に臨もうと心に決めました。


「来週は、また痛いようでしたら麻酔をかけて治療しますね」
という言葉を胸に、その来週がやってきました。

今日は前回ほど取り乱したりしないぞと気合いを入れ、治療が始まりました。

今回もやはり、半分あの世にいきそうなくらいの究極の痛みです。

でも心の中で、「もうすぐ麻酔するから、それまで我慢、我慢…」と、
気を失う寸前までぐっとこらえ、痛みを大人っぽく表に出さず、耐えました。


ギュイーンギュイーンという音が止まり、
とりあえず前半が終わったな、これから麻酔しての治療だな、と思ったら、
先生が「今日は痛くなさそうでしたので、麻酔はかけずにやりました」
と爽やかに言ったのです。


ガーン。


私の我慢は…

あの地獄のような痛みは…

麻酔さえかけてくれていれば…


私が相当我慢強い事は判明したのですが、
私が素直に痛がっていれば、あんな思いはせずにすんだのです。

その次からというものの、
私は、素直に、いや、ややオーバーリアクション気味に痛みを伝える事にしました。
ちょっと染みただけで、「アガッ」と叫び、つま先を上げます。
痛みなどあったもんなら、両膝を上げます。

結局、どうしようもない痛みだったりするので
「痛いですよねー、がんばってくださいねー」とそのまま加瀬亮による治療は続行される事となります。


しかしこの一件で、歯医者さんでは感情を豊かに表現するべきなのだなぁとわかりました。

これは、普段あまり人にアドバイスする機会のない私からの、貴重なアドバイスです。


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出口かずみ

佐賀県うまれ。絵本作家、イラストレーター。
マァヘイくんシリーズの絵本など、ユニークな作品が多い。

当店でも「小人とよむしりとりえほん」などの豆本が大人気。
「ポテトむらのコロッケまつり」(作:竹下文子/絵:出口かずみ/教育画劇)が出版されました。


≫ 出口さんの豆本など http://rusuban.ocnk.net/product-group/67/0/photo

≫ 出口さんのHP http://www.deguchikazumi.com/

 

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